1月17日、ドナルド・トランプ大統領はSolana上でミームコイン「$TRUMP」をローンチし、48時間以内に時価総額が760億ドルに達した。しかし、この急騰は1月19日にファーストレディが自身のトークン「$MELANIA」をローンチしたことで終息した。新たなトークンは$TRUMPから流動性を奪い、その価格は1時間足らずで約75ドルから30ドルに急落した。

価格の変動にとどまらず、このローンチはクリプト市場全体に広範な影響を与えた。Solana DEXは過去最高の日次取引量を記録し、DeFiLlamaによると取引額は850億ドルに達したが、多くのユーザーからネットワークの混雑や取引失敗が報告された。さらに、Moonshotは24時間以内に40万人以上のユーザーをオンボードしたとされており、過去最大級の単日新規参加者数となったと報じられている。

反応は賛否両論だ。一部では、米国大統領がオンチェーンでトークンをローンチし、新たなユーザーの活動を促したことを、クリプトの普及が進んでいる証拠と捉える声がある。一方で、トークンの分配に対する懸念も指摘されている。トランプ政権が供給量の80%を管理しているように見えることから、インサイダー割当への疑念が生じている。ロックされたトークンは、「Creators and CIC Digital 1-6」とラベル付けされた6つの事業体に分配されており、ロックアップ期間は3カ月から12カ月に設定されている。その後、最初に10%または25%が解除され、その後2年間にわたり段階的に毎日リリースされる仕組みだ。

状況が落ち着く中、市場の関心はこれがより広範な市場のダイナミクスにどのような影響を与えるのか、持続的な変化の兆しなのか、それとも一時的なサイクルの一環に過ぎないのかという点に移っている。

Sunny Shi(@defi_monk)

$TRUMPコインのローンチとその後の市場反応は、「プルフォワード(需要の前倒し)」イベントとして捉えることができ、現在のクリプトサイクルの軌道や持続期間について貴重な洞察を提供している。同時に、このトークンの急騰は、クリプト業界全体、特にSolanaが過去数年間で積み重ねてきた進展を強調するものでもある。この動向は、「ブロックチェーンが、あらゆるものを、どこでも、いつでも取引できる場」 へと進化していくという極めて強気な見通しを示している。

$TRUMPは一夜にして個人投資家の大量流入を引き起こし、急速に市場の需要を前倒しした。この動きは、2021年4月にDOGEが700億ドル以上の時価総額を追加した際の現象を彷彿とさせる。DOGEの急騰は、過去最大級のクリプト市場への新規参入のきっかけとなった事例の一つだ。今回も、$TRUMPの取引プラットフォームとしてミームコインの公式サイトに掲載されたMoonshotが40万件以上の新規ダウンロードを記録しており、個人投資家の買いが実際に流入したことを示している。ただし、これらの新規参入者の多くがクリプト取引に継続的に関与する可能性はあるものの、2021年のDOGEの急騰がその市場サイクルの終盤を示していたことには留意すべきだ。DOGEの事例では、数カ月にわたるユーザーの徐々な流入が、一つの集中的なイベントに凝縮された 形となっていた。

一方、クリプトTwitterでは、ミームコインの継続的な強さと活発な取引活動を嘆く声も多い。これは、「Solanaカジノ」 の投機的な性質が、DeFiのような革新的な分野と比べて魅力に欠けると考えられているためだ。しかし、この現象は最終的にブロックスペースへの需要が拡大していることを示しており、特にSolanaのような実行環境の進化が、この成長を支えている。Solanaはより高速かつ低コストでブロックスペースを提供し、今回の動きは同チェーンにとって大きな勝利となった。実際、$TRUMP関連の取引量は最初の3時間で10億ドルを超え、24時間以内に時価総額は800億ドルに達した。また、Hyperliquidはトークンのローンチからわずか数時間で流動性の高いTRUMPの永久先物(perps)を上場させた。これは、オンチェーンプロトコルが、投機的な需要を捉えるためにどれほど迅速に流動市場を形成できるかを示す好例となった。

驚くべきことに、$TRUMPはトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(DJT)を上回る評価額で取引され、より多くの取引量を生み出している。これまでDJTは、トランプの影響力と結びついた主要な投機対象として認識されてきた。もし今後の取引の未来がオンチェーンにあるとすれば、この出来事は業界が正しい方向に進んでいることを示す説得力のある証拠となるだろう。

Kinji Steimetz(@SteimetzKinji)

$TRUMPのローンチは、単なるミームコインの誕生ではない。それは、トランプ政権がクリプトに対して前向きな姿勢を取っていることの金融的な表れだ。現職の大統領が実質的にトークンを承認し、ローンチするという事実は、前政権からの政策の劇的な転換を示しており、オンチェーンのデジタル資産を全面的に受け入れる姿勢を示している。短期的な市場への影響はまだ不確実だが、より広範な意味合いを考えれば、この出来事を無視することはできない。これは単なる規制に関する議論や選挙キャンペーンのレトリックではなく、政府が直接クリプト領域に参入したという事実であり、少なくとも現時点では、デジタル資産の創出を推進する価値を見出していることを示している。

とはいえ、この戦いに勝ったからといって、戦争が終わったわけではない。$TRUMP、そして$MELANIAのローンチは、トランプ政権のクリプトに対する姿勢が、イデオロギー的なものではなく、結局のところ機会主義的なものである ことも示唆している。この政権は現在、クリプトの利益と一致しているように見えるが、それは金融主権や分散化への信念に基づくものではなく、単に政治的に都合が良いためにクリプトを利用しているに過ぎない。

現在はインセンティブが一致しているため、トランプ政権はクリプトを後押ししている。しかし、この一致が崩れた場合(政策優先度の変化、政治情勢の変化、後継者問題など)、クリプトは簡単に再び政治的な犠牲となる可能性 がある。

つまり、この政権はクリプトの基本理念を信じているのではなく、政治的な利便性のために利用しているに過ぎない という点が重要だ。この違いを理解しておくことは不可欠であり、クリプトに対する今の追い風が、一時的なものに終わるリスクも十分に考慮する必要がある。

現在、クリプトは政治の中心にあるが、今後4年間のどこかで……

Dylan Bane(@dylanebane)

$TRUMPと$MELANIAのトークンローンチは、トランプ政権下での今後4年間のクリプト市場を象徴する「前哨戦」——すなわち混沌を示している。トランプの最初の任期は、予測不可能性、センセーショナリズム、そしてメディアの注目を独占する戦略 によって特徴づけられた。クリプト市場において、トランプは自身の「物語を支配し、注目市場の中心に立ち続ける才能」を最大限に活用し、超金融化する可能性を秘めている。

トランプには、クリプトを利用して流動資産を急速に増やす合理的な理由がある。大統領選キャンペーンの期間中、彼は民事訴訟で5億ドル以上の罰金を科されており、流動資産全体が危機に瀕していた。トランプの純資産は過去1年間で30億〜80億ドルの間で変動 していたが、その大部分はTMTG(トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ)の株式(権利確定期間あり)、無形のブランド価値、換金の難しい不動産 によって構成されており、キャッシュフロー不足に陥るリスクを抱えていた。

しかし、$TRUMPトークンのローンチによって、この状況は劇的に変化した。わずか1日でトランプの純資産は10倍に急増し、600億ドルを超えたと報じられている。この時点で、彼の資産の90%がトークンによって構成されるようになった。トランプは公の場でこの「棚ぼた」の重要性を軽視し、「AI政策を決める大物たちに比べれば、こんなものはピーナッツだ」 と発言した。しかし、トークンローンチが彼のSNSで頻繁に取り上げられ、さらに息子3人が「World Liberty Financial」DeFiプラットフォームのようなプロジェクトを主導している事実 から考えると、トランプが水面下でクリプトを真剣に捉えていることは明らかだ。

トランプは今や、自らの一存でクリプト市場の「最前線」を動かせることを理解し、それに対する重大な反動もないことを確認した。物語性と市場の注目度がすべてを左右するクリプト業界において、市場は今後4年間、トランプの気まぐれに翻弄される可能性がある。突発的なトークンローンチ、誇張された政策公約、突如として行われるクリプト政策アドバイザーの入れ替え などが繰り返されるだろう。例えば、即興でローンチされた$MELANIAは、AI関連トークンやミームコインの即時売却を引き起こし、Solanaの基盤となるブロックチェーンインフラにも負担をかけた。同様の出来事が今後4年間、頻繁に発生する可能性がある。

この状況は、主要トークンと小規模トークンの二極化を加速させる。機関投資家向けの承認を得た大型トークンは、トランプ政権の親クリプト規制と業界との密接な関係から徐々に恩恵を受けるだろう。一方で、個人投資家向けの小規模トークン(いわゆる「トレンチ」)は、トランプの発言や行動に対して激しく反応し、流動性が突然蒸発する「ブラックホール流動性イベント」のリスクにさらされる。トランプの独特なキャラクターと、彼のクリプト市場への積極的な関与がどのように市場を動かすかは、これまでのクリプト市場には存在しなかった新たな現象を生み出すことは間違いない。

ミームコインや個人投資家に人気のトークンの運命が、トランプの予測不能な2期目に結びつくことが、最終的に業界にとってプラスとなるのかは、まだわからない。

Andrew Dyer(@0xSynthesis1)

どこかの世界線では、$MELANIAがローンチされず、$TRUMPが$100に到達し、Moonshotのようなプラットフォームを通じて参入した新規ユーザーが、最初の成功体験を得たことで、さらにクリプト市場に投資していく未来 があったかもしれない。しかし、現実には2つ目のローンチが市場のセンチメントを悪化させ、95%以上のトークンから流動性を奪い、市場の次の展開に対する投資家の判断を混乱させた。この出来事は、エージェント(AIトレーディングボットなど)の分野が持っていた強い上昇モメンタムを大きく阻害し、現在の市場の主要な投資テーマ(メタ)が何なのかを不透明にしてしまった。しかし、新たなメタが明確に台頭していないことを考えると、AIは依然として最も魅力的な分野の一つであり、BTCが安定すれば再び資本が流入すると考えている。

今回の出来事を「大規模な個人投資家のオンボーディング」として捉えるのは確かに重要だが、そのインパクトを相対的に評価する視点も必要だ。例えば、$TRUMP保有者の80%以上は、1,000ドル未満の資産しかウォレットに持っていない というデータがある。つまり、40万人の新規参入者が1,000ドルずつ持ち込んだとしても、新規資本流入は最大で約4億ドルに過ぎず、1月21日にBTC ETFが受けた資金流入(約8億ドル)の半分以下 にとどまる。この観点から、$TRUMPはオンチェーンフローにとって短期的には重要かもしれないが、市場全体を動かす資金フローにはほとんど影響を与えない可能性が高い。クリプトに好意的な規制当局による新しいタスクフォースの発足、SAB-121(銀行によるクリプト資産の会計処理を制限する規則)の撤廃、さらにはルミス上院議員が主導する新たな作業部会の設立 など、市場に大規模な資金流入をもたらすために必要な変化はすでに進行している。

*元の記事は2025年1月24日執筆です。記事中のデータは現時点の数値と乖離している可能性がございます、予めご了承ください。