DeFimans注目記事ピックアップ:CoinbaseがETH担保ローン提供を開始:Morpho連携でUSDC借入が可能に
DeFimans注目ポイント:CEX・DeFi連携によるレンディングUXの進化
時には、生活費や突発的な支出を賄うために暗号資産(クリプト)を売却せざるを得ない場面がある。これは現実的なニーズだ。しかしその一方で、売却後には保有するクリプトが減少し、さらに売却行為そのものが課税対象となる「課税イベント」を発生させてしまう。
こうした痛点が、DeFi における借入を非常に魅力的な手段にしている。
従来の個人ローンでは、金融機関に出向き、書類を記入し、信用審査を受け、時には実物資産を担保に入れる必要があった。しかし DeFi では、暗号資産をスマートコントラクトに担保として預けることで、数分で、かつパーミッションレス(許可不要)に借入を行うことができる。すべてスマートフォンから完結する。
この仕組みによって、例えば USDC のようなステーブルコインを借り入れ、それを現金と同様に利用しながら、基礎資産となるクリプトを売却せずに保有し続けることが可能になる。すなわち、長期的な価格上昇へのエクスポージャーを維持したまま、現在の購買力を確保できるわけだ。加えて、米国ではこの種の個人向けローンは課税所得とはみなされない。
もっとも、このような DeFi モデルがいかに強力であるとしても、オンチェーン上で自ら行動することがすべての人にとって容易であるとは限らない。筆者の家族や友人のなかにも、CEX(中央集権型取引所)上に ETH を保有し、DeFi ツールの利用に関心はあるものの、自力でオンチェーンアプリを操作する自信がないという層がいる。
しかし、それ自体は何ら問題ではない。DeFi の恩恵にアクセスするために、誰もが「フロンティア開拓者」になる必要はないからだ。
実際、今後はその必要性はさらに低下していくと考えられる。なぜなら、「DeFi Mullet(前面はフィンテック、背面は DeFi)」というコンセプトを取り入れるメインストリームなアプリケーションが増加しているためである。ユーザーから見える部分は従来型フィンテックのようにシンプルで分かりやすく、その裏側のインフラとして DeFi が組み込まれている、という構造だ。
その新たな例が、先ごろ Coinbase が発表した Morpho を用いた ETH 担保ローンである。
Coinbase は世界的に高い信頼を得ている、インターフェースも分かりやすい暗号資産取引所の一つであり、一方の Morpho は実績に裏打ちされた堅牢な DeFi レンディングプロトコルである。この両者による統合は、筆者が家族や友人にも安心して推奨できる事例と言える。
この連携により、ユーザーは Coinbase アプリの外に出ることなく、保有する ETH を担保に資金を借り入れることが可能になった。手続きもきわめて単純である。すでに Coinbase 上に ETH を保有していることを前提とすると、操作の流れは次のとおりだ。
- ETH 残高をタップし、Ethereum のダッシュボードを表示する。
- 画面をスクロールして「Borrow」タブを探し、「Start」を押す。
- 案内文を確認する。具体的には以下の項目が表示される。
- Borrow up to:Coinbase に預けられた ETH 残高に基づく最大借入可能額。
- Variable rate:Morpho がこのローンに対して適用する変動金利。
- Liquidation LTV:担保価値に対するローン比率(LTV)がどの水準に達した場合に、担保である ETH が返済のために清算され得るかを示すポイント。
内容を確認したうえで「Continue」を押す。
- Borrow up to:Coinbase に預けられた ETH 残高に基づく最大借入可能額。
借入インターフェースに遷移したら、希望する USDC の借入額を入力し、「Review loan」をクリックする。
表示されたローン条件に問題がないか最終確認を行い、問題がなければ「Borrow now」を押し、続いて「Accept and continue」を選択する。これでローン申請は完了だ。Coinbase の UI 上に反映されるまで、1〜2 分程度のラグが生じる可能性はあるが、特別な追加操作は不要である。
ローンを開設した後は、Coinbase の「Cash」タブに移動すると、「Borrow」セクション内に「Manage Loans」ボタンが表示される。ここから「Repay」オプションにアクセスでき、借り入れた USDC を時間をかけて返済していくことが可能だ。
なお、これらの ETH 担保ローンは返済期限が柔軟に設定されており、特定のスケジュールに沿って定額を返済する必要はない。利用者は自身の状況に応じて、好きなタイミング・金額で返済できる。ただし、担保清算を回避するためにも、ローンの健全性(ヘルス)は継続的にモニタリングする必要がある。
あわせて留意すべき点として、Coinbase 上で借り入れた USDC は、Coinbase 内で新たな暗号資産を購入する用途には利用できないことが挙げられる。この手段は、あくまで現金化し支出に充てるためのルートとして設計されている。
DeFi へのオンランプ(入口)という観点から見ると、この Coinbase × Morpho の連携は、現時点で考え得る中でもっともシンプルかつ安全性の高いモデルのひとつだと言える。
まだ ETH を担保とした借入を試したことがないユーザーや、その周囲の人々にとっても、本取り組みは最初の一歩として適した選択肢となるだろう。